視点移動を解析するeyetrackingと様々な分野への応用~デジタルサイネージ、ゲームUI、スポーツ~
この記事では、現在実用化され、様々な分野で応用されているeyetracking技術と、ゲームUI開発への応用を提案した論文を紹介します。
eyetrackingとは
eyetrackingとは、視点の場所や東部に対する眼球の動きを計測し、追跡する方法であり、アイトラッカーと呼ばれる機器を利用します。 アイトラッカーのトップシェアを誇るのはトビー・テクノロジー社。 www.tobiipro.com
アイトラッキング技術は心理学や認知科学等のほか、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションやマーケティングなど、様々な分野で応用されています。
eyetrackerの仕組み
ここでは、トビー・テクノロジー社のウェアラブルタイプのアイトラッカーを例にその仕組みを説明します。
画像のように、グラスには瞳孔検出のための近赤外LEDと、アイトラッキングカメラ、視野映像の記録用シーンカメラが装備されています。赤外線はその反射をアイトラッキングカメラで記録することで瞳孔を解析し、どこを向いているのかを認識します。 アイトラッキングにはキャリブレーションという技術が必要となります。これは性格に視点を算出するためのプロセスです。目の幾何学的特徴を取得し、それをもとに3Dアイモデルをカスタマイズすることで視点を算出します。3Dアイモデルには角膜や中心窩の位置、形状など様々な情報が含まれています。
応用例
アイトラッキングを応用した事例をいくつか紹介します。
セールスプロモーション
デジタルサイネージ(電子看板)が、消費者の商品選択率の向上に役立つという仮説検証の調査に、アイトラッキングが利用された事例です。
画像のように全く同じデザインの広告を、POPとして張り付けた場合と、電子看板として設置した場合で、アイトラッキングを行い、どの位置をどのくらいの時間眺めていたかを検証しました。
二種類の商品で検証しており、これは商品認知度の差を考慮しているためである。(左:認知度高、右:認知度低) その結果、認知度の高い商品に関しては、POPとデジタルサイネージの注視時間はさほど変わらなかったが、認知度の低い商品の場合はデジタルサイネージに対して注視する時間が7倍も長かったそうです。
条件 | 緑茶 | 酸素水 |
---|---|---|
POP | 0.93sec | 0.89sec |
デジタルサイネージ | 2.55sec | 2.16sec |
疲れないゲームUIの開発
とある卒業論文に興味深いアイトラッカーの応用例を見つけたので紹介します。
https://gamescience.jp/2015/Paper/Saiki_2015.pdf
シューティングゲームを例として、ゲームのUI配置による目の疲労度をアイトラッカーで分析してみようという内容である。実験内容は以下の通りである。 3DシューティングゲームのUI配置を、周囲利用型と全面利用型、周辺配置型に分類し、それぞれに対応したゲームを制作、21名の被験者にプレイしてもらい、フリッカー値(光の点滅が見える限界の頻度値であり、目の疲労度とともに減少する性質を持つ)の推移を計測する。
実験の結果、周辺配置型UIの場合、視線移動量が多く、フリッカー減少率が大きいことに対し、全面利用型は比較的減少率が小さいことが分かったという。 また、シューティングゲーム経験者の方が、未経験者よりも視点移動が多く、フリッカー減少率が大きいことも判明した。
スポーツ分野での応用
スポーツ分野でも、アイトラック技術が利用されています。 エキスパートと初心者では、視覚探索がどのように違うのか、それによって何をどう判断しているのかを分析し、トレーニング方法を確立したり、より効率的なチュートリアルを作成したりすることにつながります。 例えば、F1ドライバーの例を挙げてみましょう。世界的に有名なF1ドライバーNico Hulkenbergの運転中の視覚をトラッキングした結果、道路、カーブ、コーナーの内側の頂点といった個所を集中してみていることがわかりました。他の情報を得るために視点を移動させる時間はわずか1/10秒だったという。
Through the eyes of an F1 driver - Tobii
近年急成長を遂げているe-sportsの分野でも、eyetrackerによる視点の分析はよく話題に上がります。シューターゲーム最大手であるCS:GOの世界大会では、2017年にアイトラッカーが導入され、視聴者たちはプロの選手たちがどこを見ているのかを見て楽しむことができた。このように、視聴者側に新たな楽しみを与えるといった点で、アイトラッカーを利用する事例も少なくはない。最近はアイトラッカーを利用してゲームをプレイしてみる動画を挙げているYouTuberもしばしば見かけられる。
まとめ
現在、トビー社の製品を筆頭に、非常に高レベルな視点解析が可能となっている。人が行う「見る」という行為は常に付きまとうものであり、あらゆる判断の材料となる。そういった中で人の視点を解析し、その原因、理由から人の心象心理を予測し、セールスや能力向上などに利用することがその分野の発展につながることは自明であろう。我々の「見る」という行為そのものすら、「見られる」時代となったのである。
出典
アイトラッキング - Wikipedia (2020/05/10アクセス)
アイトラッキング世界最大手|トビー・テクノロジー(2020/05/10アクセス)
http://tobii.23video.com/through-the-eyes-of-an-f1-driver (2020/05/10アクセス)
https://gamescience.jp/2015/Paper/Saiki_2015.pdf (2020/05/10アクセス)